平凡学徒備忘録

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何故人は詐欺に引っかかってしまうのか?~限定された選択肢~

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例えば、チョコケーキを買おうと近所のスーパーマーケットに行ったとき、その店ではショートケーキしか取り扱っていなかったらどうだろう。あなたがもしチョコケーキを食べたいと思っても、取り扱われていないので買うことができない。もしあなたが作り方を知っており、材料とキッチンがあるならば、自分で作るという手もある。しかし、手を怪我していたり、材料が売り切れていたり、キッチンが無かったり、料理がてんでダメだとしたら、残念だが、チョコケーキはあきらめるしかない。ショートケーキを食べるしかなく、チョコケーキを食べたときと同じような満足感は得られない。 

選択肢が限定されているというのはこういうことだ。ただ、ケーキの話なら諦めも簡単につくし、ストレスがそこまで無いだろうが、もっと深刻な状況で選択肢がない時、例えば、マンション投資のセールスを受けたりした時には、より真剣に問題に向き合わねばならない(※一応断っておくが、別にマンション投資全部が損だとも、そういったセールスマンが全員詐欺師だとも考えていない。誤解なきよう)。 

 

 

マンション投資は当たれば大もうけ、外れれば大損である。余程自信があるなら話は別だが、低所得者には基本的にリスクの高い話である。 

しかし、貯金をタンスにしまっておくだけでは少々勿体無い。ということで、昔なら銀行に預金すれば普通預金でも多少の利子がついた。不確実なマンション投資よりも銀行に預けるという選択肢があった。しかし今、銀行にいくら預けても、利子はほとんどつかない。つまり、タンス預金とほぼ変わらず、金融投資としての選択肢にはなりえない。 

こんな状態でマンション投資の話を持ちかけられたらどうだろうか。もしマンション投資以外に話を持っていない場合、与えられた選択肢は「減りもしないが増えもしないタンス預金」か「当たれば大儲けできるマンション投資」になる。この極端な選択肢を突き付けられたらリターンを得る可能性に賭け、マンション投資を始め、もちろん成功する人もいるだろうが、破産する人が出てきてもおかしくないだろう(また、マンションを買った後もマンション運営のノウハウなんかを買わされたりするだろう)。 

しかし、例えばこの時、もっと手軽な投資(積み立て投資とか)をオルタナティブとして選択できるなら、ここまで極端な選択肢を迫られなくても済む。ノーリスクノーリターンとハイリスクハイリターンではなく、ミドルリスクミドルリターンの選択ができる。 

つまり選択肢が多いほうが、自分の現状に応じて最適な行動を取れるので満足を得やすいということである(話を簡略にするため、今回は情報の非対称性や限定合理性については考えない)。

マンション投資の話で言えば、世の中にはもっと良い投資物件があるのに、選択肢にないが為に、現状維持かもしくは冒険に出るかという極端な選択しかできなくなり、その極端な選択をした結果、大損して貧困に陥るといったことが起きる。逆に選択肢をいくつか持ち合わせており、合理的な判断ができる人はチャンスをモノにできる。そしてどんどん豊かになっていく(無論全員が全員そうとは限らないが)。 

 

ちなみに、色んなセールス手法はこのことを利用している。

www.youtube.com

この動画(7:47から)ではある私企業の開いているビジネススクールの広告が「一生マックで働きたいのですか?」という文句をくっつけている事例を挙げている(このような広告手法を、敢えて痛いところを突くという意味でpain-point approachという)。また、9:29で挙げられているCorinthian Collegeが、どのように学生をリクルートしたか、この記事にてTasha Courtrightさんの例で紹介されている。

'Chipping Away At My Soul': Insiders Detail The Decline And Fall Of Corinthian's For-Profit College Empire | HuffPost

「『一生ガソリンスタンドで働く』か『ビジネスについて学んでキャリアアップを図る』か、今決めなくてはチャンスは二度とありませんよ」こんな風に2択を突き付けられたら、ガソリンスタンド勤務以外の有効な収入源を持っておらず、新たなチャンスにかけるべくビジネススクールに申し込む人が出てくる。もちろん、そこに行ったことで満足を得たりキャリアアップの機会を得たりする人もいるだろう。しかし、入ったことを後悔する人もそれと同じくらいいることは、勉強を全くしなかったり、つまらなさを嘆いたりする一般大学生や高学歴プアなどの存在を考えれば想像がつく(ちなみに先ほどの記事によると、Corinthian Collegeの評価は芳しくないようである)それに、そこで得た課程終了証などが実際就職でどこまで評価されるのか、どのくらい実践的かは微妙である。

加えてビジネススクールの話でいえば、学校がリクルーターとなって、企業にとって利益となるよう学生を利用することがある。Corinthian Collegeで看護についてのプログラムを受けてるはずなのに、病院での研修などではなく、サイエントロジー(アメリカの新興宗教の一つ)の精神医学セミナーに連れていかれるといった事例が紹介されている。これは極端な話かもしれないが、教育プログラムというパイプを通して企業が人を募集しようと行動するのは合理的、効率的であり、不自然な話ではない。実際知人からそういった話を聞いているし、似たような経験を前に書いたので読んでほしい。 

usamax2103.hatenadiary.com

要するにこれらも選択肢の話である。痛いところを突き、その対処法として自分のサービス、商品を買わせるという戦略を企業が取っているという話である。このとき、サービス購入以外の選択肢を持っていれば(例えば自分で勉強するということもできる)極端な選択を迫られずに、冷静な判断ができるビジネススクールに通うために借金をしても、就職が望むようにいかなかったとしても、企業は責任を取ってはくれない。焦って納得いかない判断をして、望まない商品を買わされたり、品川で倒れたりしないためにも、自分の意思決定に注意を払い、選択肢を確保しておくことが必要不可欠である。