平凡学徒備忘録

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木材は無償で提供すべき?~公共投資と乗数効果~

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民間企業の展示ブースとしても活用されている東京ビッグサイトが借りられなくなることへの反対の声が上がったり、工事現場で働く新卒作業員が過労死したりと、実施に向けて不満の声が出てきている東京オリンピックであるが、今日はこの運営方針に不満が出ていた。

www3.nhk.or.jp

簡単に言えば、木材を無償で提供することを呼びかけているものであるが、これに対して、「ただでさえ林業はカツカツな産業なのに、タダで提供させたら林業は衰退する」と不満の声が上がった。

 

無償で提供できるのはよっぽど商品にならない木材だろうが、そんな木材は選手の泊まる建物に使えない。となるとある程度ちゃんとしたものになるが、わざわざ商品になるものを無償で提供したら、林業者にとっては機会損失しかない。

前にも、東京オリンピックへの無償ボランティアへの呼びかけに不満の声が上がるという事例があった。オリンピックだから、当然世界から人が来るビッグイベントであるため、ボランティアの内容は相当大変なものになると予想される。

そんな大変な仕事に対して報酬が全くないのはおかしいだろということで、不満があがったわけである。

こういった動きの背景には、そもそも財政負担を削っていくべきとする考えがあるのだろう。昔から公共事業は税金の無駄だと言われてきた。オリンピックは完全な公共事業ではないにしろ、単なる営利企業の活動でもないので、このような批判を免れ得なかったのかもしれない。

しかし、こういった考えは公共事業の役割を勘違いしている。そもそも公共事業とは、不況時にこそ行われるものなのだ。

不況時には失業者が出てくる。仕事に就きたくとも、企業は雇用量を増やさないし、結果民間はお金を持てなくなるので、消費量は落ちる。そして企業の業績は悪化するので、リストラに踏み切り、より多くの失業者が生産される。

このような負のサイクルを断ち切るための策のひとつが公共事業だ。国がリスクを取って仕事を提供すれば、失業している人が働き、お金を稼げるので、民間にお金が渡り、消費が伸びる。こういった正のサイクルを起こす最初のきっかけが公共事業だ。

このサイクルが続けば、財、サービスのやり取りが活発化し、結果多くの経済利益が生み出される。このように、最初のきっかけを元に何倍もの経済効果が生み出される効果を、乗数効果という。

勿論、公共事業の結果、誰も使わないような無駄な建物が乱立するようなこともある。一方で人手不足だったり必要だと思われる行政サービスが提供されていないという声もある。なので、公共事業を行う先は慎重に決める必要はあるだろう。

 

さて、公共事業の意味を確認したところで、東京オリンピックに話を戻そう。オリンピックで資源の無償提供を集めることは望ましいのか。

先ほどのサイクルを辿っていけばこれが望ましくないことは明らかだろう。オリンピック開催に向けて協力しても報酬がないということは、民間へのお金の流れがないということだ。そうなれば国内消費は上がらない。むしろオリンピックへ協力する手間の分、消費が落ち込む可能性すらある。

なので、民間はこういった無償提供の呼びかけには応じず、有償での提供が出てきてから応じることがもっとも望ましい結果につながる。

ただ、実際には運営者は教育機関等と協力して無償ボランティアや無償の木材を調達する先を確保していることが考えられるので(学生を単位を餌で駆り出したりとか)、多分無償提供に応えないことはあまり効果がない。いくら待っても有償での提供呼びかけが起こらない可能性がある。

また、もし仮に運営者が全くそういった仕入れルートを確保していない場合、オリンピックが行われないことも考えられる。その場合は乗数効果を起こす最初のきっかけすら起こらないので、この結果も望ましくない。

この場合、運営者から「今は財源が厳しく、資源提供に回せるお金がありません。なので無償提供してくれないとオリンピックが開催できません。それはあなたたち民間にとって望ましくないでしょう?だから善意の寄付を!」みたいなメッセージを投げかけてくることだって考えられる。特にサービス産業はオリンピックによって得られる間接的利益がある。となればそういった産業からも同じような声が上がり、無償での提供には応えたくない産業との間で対立が起こることも考えられる。チキンレースのような状況だ。

 

さて、この状況を改善する、つまり乗数効果も見込みつつ、資源提供も行われるような状況に持っていけるような策はないだろうか。

まず考えられるのはオリンピック債のようなものを発行することである。オリンピック開催後に満期を設定し、償還していく形にすれば取りあえず実施に向けて、資源提供者に支払う報酬を賄うのに必要な金は調達できるし、債権購入者にリターンを与えることもできる。この場合、オリンピック運営事業で黒字を出すことが不可欠となる。

また、運営組織が選手村設営を民間に依頼するという公共事業落札のような形ではなく、選手村予定地に民間企業が施設を建て、それを選手村として貸し出す形にすることである。選手村設営を発注するよりも運営側の負担は安く済む。また、選手村設営という需要は確定しているので、建設企業からすれば予定地に建物を建てたいだろうから多くの企業が応募するだろう。また、建設事業者は自分の資材調達ルートを持っているから、無償で資源を集めるようなことは考えにくい。となれば資源提供者にもキチンとお金が回り、乗数効果が見込める。

 

前に記事に書いたが、善意の提供を相手に押し付けることは大抵一部しか幸せにならないという結果をもたらす。

usamax2103.hatenadiary.com

今回挙げた上記2つ以外にももっといい案はあると思うので、IOCも民間には資源ではなく知恵を出してくれと呼びかければいいのではないかと思う(もう遅いか...?)。というかそもそも、オリンピックのためだけにわざわざ会場作るのは何でだろう。すでに競技場はあるじゃんねと思ってしまう。