平凡学徒備忘録

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No cash on the table~詐欺と先行者利益~

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No cash on the table(テーブルの上に現金はない)とは、経済学の主な主張のひとつであり、「テーブルの上に現金があるなら、誰かがそれをくすねるはずだ。だから手付かずの現金などあるはずはない」という意味である。

経済学のジョークにもこんなのがある。経済学者と一人の学生が道を歩いていた。そして学生がお札が道端に落ちているのに気がついたが、経済学者はそれを素通りした。

学生が「拾わないんですか?経済学では個人は自分の利益を最大化するんでしょう?」と尋ねると、経済学者はこう答えた。「本物のお札なんて落ちているはずがない。落ちていたら誰かがとっくに拾っているはずだ」

この経済学者の主張は半分正しく、半分間違っている。

 

確かに、大体においてうまい話などない。持ちかけられるうまい話の裏には何かしらあるし、そんな話を持ちかけるやつは大体詐欺師だ。本当にうまい話であるなら、それを人に教えるのは自分の利益に反する。にも関わらずそんな話を持ちかけるのは誰かを新規で参加させる方がその人にとって得だからで、つまりは新規参加者から利益を得るからだ。このように考えていくと、道端にお札があれば誰か拾っているはずだということになる。

しかし、先行者利益というものがあるのも事実だ。先にビジネスを始める、投資する、サービスを利用する、このことで利益を得ることはある。新規の事業やサービスが先行者利益をアピールするのはユーザーを増やすためだ(今だけキャッシュバック、先着20名様にプレゼントなど)。ユーザーを増やすために、後で使い始める人より有利なサービスを先行者に提供するのである。

なので、その道を通る人が少ない場合、ひょっとしたら自分がその先行者かもしれない。それに、お札が本物かどうか調べるには拾って警察に届ければよく、本物ならばいくらか利益はあるし、偽物でも少なくとも不利益は生じない。本物だろうと偽物だろうとあまりコストは発生せず、利得は期待できるので、経済学者は拾って確かめるべきではあった。

 

この事実が、人の認知を歪める。「うまい話などあるわけない」と分かっていても、現実にはたくさんお金もうけしている人だっている。そして「もしかしてうまい話があるんじゃないか?」という気になってしまう。この心理が分かっているから、儲かる方法を教えて利益を得ようとする人は金持ちであるかのような振る舞いをする(高級ブランドものを身に付けたり、札束を積んでみたり)。

しかし、実際儲かっている人は先行者だったからである。先に事業を始め、それが上手くいったという話だ。もし新規参入の余地があれば、一番乗りしていない限り参入利益は得られない。うまい話が宣伝されている時点でもう参入利益は残されていないと見ていいだろう。

それに、先行企業は新規参入障壁を設けたいに決まっている。誰も好き好んでは競争したくないからだ。このことを踏まえずに情報を鵜呑みし、従ってしまうと、疲弊するか食い物にされるだろう。うまい話に飛び付いてリスクを取った結果、既にテーブルの上に現金はなく、払ったコストが無駄になってしまうことになる。

 

というわけで、何かで利益を得るには先行者になるしかなく、また、継続的に利益を得るには後続の参入企業に対しての競争優位を持ち、参入障壁を設けなければならない。

しかし、あなたが思い付いたことは大抵すでに他の誰かに思い付かれていて、その結果がすでに出ている。なので、何か新しげなことを思い付いたら、まずは誰か試していないか確かめてみるべきである。

このことは、2つのメリットをもたらす。1つ目は払わなくてもいいコストに気づけることだ。学問の世界ではまずは先行研究を調べることが不可欠なように、既に誰かがやっているなら同じことをやる必要はないし、やったところで利益がない。例えば新規事業を興す場合でも、既にある企業をそっくりそのまま真似ても意味がない。興すだけ無駄である。

もう一つは、既に行われていることに何が足りないのかを発見することができる。先行研究がすでになされていても、時代の変化や新しいものの登場などで、先行研究に足りない部分が生じてきているはずだ。そこに気づけばあなたが先行者になれる。

 

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 例えばこの記事では、品川駅構内にある自販機とセブンイレブンで同じ商品の値段が異なる事例を取り上げている。さすがに品川駅で新規事業を興すわけにもいかないが、このようなズレに気づけば、それが先行者利益を得る機会になるかもしれない。

 

「新しい手法で儲けられる」みたいな話に乗っかったところで、先行者利益は既に残っていない。テーブルの上に既に現金は残っていないのである。にも関わらずそれに乗っからせようとしている人は、他人を食い物にしようとしている。儲かっているように装っている人は、先行者利益によるものであり、あなたは多分同じようにはなれない。なので先行者利益を得るには、キチンと過去の事例を踏まえることが必要になる。過去と今のズレのなかにこそチャンスはある。