平凡学徒備忘録

Know your enemy with warm heart and cool head.

タバコの問題をシンプルに解決する~負の価値財、外部性と政治機能~

f:id:usamax2103:20171022181258p:plain

toyokeizai.net

<目次>

 

都議会がタバコに関する条例案があることを公表したことを受けて、タバコについての論議がまたもや盛りあがりそうだ。特に東京は2020年のオリンピックに向けて、急ピッチで規制が進められていくだろう。既に狭い喫煙者の肩身がより狭くなっていきそうだ。

消費されることが望ましくない財を、経済学用語で負の価値財という。昨今のタバコへの風当たりをみるとタバコは負の価値財であり、その他にも酒類や麻薬、ポルノ作品なんかもこれに入るだろう。

しかし、消費されることが望ましくないからといって即座に法律レベルで禁止すべきと断じてしまうのは気が早すぎる。

 

これらは消費されることが望ましくないのですぐに法律レベルで禁止すべきという動きに繋がりやすく、また、反対もしづらいのでその動きに歯止めがかかりにくい(現に、これを読んで「禁止すべきではないなんて、この作者は人として当然の考えを持ち合わせていないのか」と思った方もいるだろう)。だからこそ慎重に考えるべき問題なのである。

経済学的に見れば、これらの負の価値財については禁止以外にも問題解消の策は色々あるので、今回はタバコを主な例に挙げて、それらの解消策について述べていく。

 

「即禁止」は大抵良くない

まず、負の価値財を安易に禁止すべきでないと思う根拠について述べていく。例えば筆者は非喫煙者であるが、タバコは禁止すべきでなく、分煙の方向に進んでいくべきだと考える。これは

  1. 人の需要は最大限満たされるべきである
  2. 負の価値財とはいえ、根強い需要のあるものを禁止するとより厄介な問題を招く

という2つの考えに基づいている。

まず1 の人の効用は最大限満たされるべきという考えである。有形無形の欲しているものが手に入れられることで人は効用を得る。だから効用最大化の為には、需要を最大限満たされるべきと考えている。

2つめの根拠の背景にあるのが、1920年にアメリカで制定された禁酒法だ。これは酒類の製造を禁止する法律で、結果としてギャングが酒類を独占的に販売して資金を得たり、ブラックマーケットの拡大につながった。

タバコがもし禁止になった場合、非合法的にタバコを提供する店が同じように出てくるだろう。合法的な市場で禁止されている以上、タバコ提供者はブラックマーケットでほぼ独占的に商売ができるからオイシイ話ではあるし、それに反社会組織が目をつけない訳がない。

特に、それらの組織は既に違法行為の隠し方や闇市場での商売の仕方、仕入れ、販売ルートなどについてのノウハウを持ち合わせているだろうから、既に経営資源が揃っている状態にある。だからタバコ禁止は単に反社会組織にビジネスチャンスを与える結果になりかねない。

じゃあそういった店の取り締まりを強化すればいいじゃないかと思うかも知れないが、都内のすべての店を調査するのは不可能であるし、禁止しなければ本来発生しなかったコストがかかっている。それを負担するのはその消費と関係ない人たちだ。

そもそも何が問題になの?

さて、じゃあどうすればいいのかという話だが、まずそもそも経済学的に負の価値財は何が問題なのか。それは負の外部性である。

外部性とは、ある財の取引が、その市場以外に及ぼす影響である。よく例に挙げられるのが工場の煙などによる公害だが、これは工場での製品作り、販売が周囲の環境に害という形で影響している。タバコも同じように、その煙が周囲に影響し、ニオイやヤニ汚れなどの影響を及ぼす。酒類も、酔った人が騒ぐ、理性が保てず迷惑行為をしてしまうことなどが負の外部性になるし、ポルノ作品も、それが目に入ってしまった場合に負の外部性というコストをもたらす。

そして、外部性はそれを発生させている人が対処をしないことがある。勿論周囲への迷惑を考えて自主的に対処する人もいるが、基本的に困るのは周囲だけなので、どうしても対策が不足しがちである。

外部性対策の大まかな枠組み

なので、外部性が発生する状況を改善するには、周囲に負担させているコストを発生者に負担させること、すなわちコストの内部化が必要になる。そして内部化させる手段のなかで最もよく使われるのが税金の導入である。課税して周囲にかけていたコストを、その値段という形で直接的にコスト負担させれば、その消費者は周囲の迷惑も勘定に加えた消費行動をする。

また、徴収した税金を、迷惑を被っている周囲に還元することで、外部性を我慢できる、釣り合いのとれるレベルに、もしくはゼロに抑えることができる。タバコの例で言えば、徴収した税を財源に、飲食店の分煙対策や喫煙所設置の補助金として使えば、周囲にもたらす外部性を抑えられる。

また、先程挙げた記事では、喫煙者のもたらす飲食店への売り上げと非喫煙者のもたらす売り上げの比較をして、喫煙禁止とすべきと言っていたが、分煙対策にすれば、そのようなトレードオフの問題に陥らずに済む。住宅で喫煙する時にも、喫煙所を設ければ屋内禁止によって喫煙者や非喫煙者どちらかが我慢せざるを得ない状況から抜け出せる。

対策は政府よりも民間で行うべき

ただ、実際にはたばこ税は使途の定められていない税金であり、これが色んな選択肢を排し、タバコ屋内禁止やむ無しの状況を作り上げている。安定した需要がある財ゆえにこうなっているのだろう。政府にしてみれば議員や官僚、行政職員の給料や社会保障などの財源をできるだけ多く獲得したいインセンティブがあるので、どうしてもそのような徴収の仕方になり、税制と市場の失敗への対策がうまく噛み合わないことになってしまうのだろう。

コストや効率性の点から、市場の失敗はそれが起きている市場の中で解決すべきである。しかし、政府の持つインセンティブは本来そこに求められている機能から少しズレてしまう。結果、非効率な状況に陥ってしまう。

であるならば、本当に市場の失敗を解決しようと思ったら、その市場の中で自主的に同じようなシステムを作り上げる必要がある。この記事でも述べたが、

 

usamax2103.hatenadiary.com

 

民間で自主的にできることはやり、政府の規模は縮小すべきである。

具体的な政策提言

例えばこのような策が考えられる。まず、タバコの製造、販売会社間で協定を結び、それぞれの会社が規模に応じたお金を一ヶ所に集める。

そしてそれを、喫煙に寛容だったりタバコを吸えることを売りにしたい飲食店や建物管理会社に使途を定めて与える。それを原資に、それぞれの店が分煙設備を購入する。

全ての店がそれぞれ設備を買うかどうかを判断するので、住み分けも上手くいき、一律にルールに従わせることで失われる損失も発生しない。そして分煙設備の会社も、自社の製品を買ってもらおうと競争するので高品質、低コスト化が実現されやすくなり、かつ、政府部門が公共投資を行うよりも癒着などの問題が起きにくい。

全ての店を一律に規定するのではなく、それぞれ自由に顧客層を設定して供給する。これこそ多様性ではないだろうか。

もっとも、基金を管理する組織が必要になればそこでもなにかしら問題が起きるだろうから何かしら、店が分煙設備のコストを負担しない形にすれば、過剰に消費されてしまう可能性もある。だからその組織の管理体制や不正を防ぐ取り組みや細かい設計が必要になるし、何かしら競争的な環境を作るなど仕組みも必要になるだろう。また、タバコ会社から集めたお金を建物管理会社や店に補助金として与えるのか、それとも現物支給のような形にするのかなど考えるべき点はある。

もしくは、タバコと分煙設備の会社が協力する、もしくはどちらも提供するような会社が作られてもよいだろう。例えば、現在たばこ税として支払っているものを分煙設備の製造に充てている会社はたばこ税を免除されるというやり方も考えられる。タバコ自体の値段は変わらないが、使途が定められているので、市場の失敗改善には役に立つ。多少マッチポンプな感じが否めないものの、タバコへのニーズがある以上、喫煙者に分煙への配慮を行わせるのであればある程度有効な手段であると思う。

また、喫煙者は健康のリスクがある。それに対して現在は社会保障が適用されているが、保険会社と手を組む、保険サービスを提供するような取り組みも、手段として考えられる。これも先程と同じく、たばこ税免除があればより効果的である。少々滑稽なアイディアではあるが、受益者負担の原則に沿っているので社会保障への納税者にしてみたら逆に良い話であるし、喫煙者にしてもタバコの値段が変わらなければ特に問題はない。

 

ともかく、タバコの問題、ひいては負の価値財への対処方法にはバリエーションがあるし、その対処を民間が行う余地もある。大事なことは、どうすればシンプルに(アイディアにしても、予算や規模にしても)問題を解決できるのかを考えることであろう。