平凡学徒備忘録

Know your enemy with warm heart and cool head.

不安商法に呑まれないために

 コロナウイルスが日々取り沙汰されており、その混乱に生じてデマも散見されるようになった。アオサが有効だの27度のお湯を飲むのが有効だのなんだの。今まで自分の体温測ったことないのかと聞きたい。

こういったデマが広まってしまう根本には、人間がどうしても抱えてしまう不安感情がある。不安でどうしたらいいのか分からない時に、「これが答えだ」と提示されてしまうと、それを得て安心しようとしてしまうのが人間の性であろう。

そこで、倫理観の欠如した人間はこの心理をついてビジネスを行うわけである。過剰に不安を煽り、焦りから判断力の低下した人間に「解決策」を売りこむ、いわゆる不安商法というやつである。筆者自身の話をすると、不安を煽られて不本意ながらセミナーやサークルに参加したことがあるし、赤の他人が迫られているのを見たことがある。すっかり忘れていたのだが、その時の様子は過去に書いたこの記事で述べている。 

 

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 さて、不安商法は悪徳なものであるものの、危機感を持つこと自体は重要である。筆者は最近、将来のために資産運用の本を読んでいる。社会保障の制度が頼りないものである以上、そういった形での自己防衛は不可欠であると考えているし、将来に対する危機感から今のうちに勉強という投資をしているわけである。海外移住できるように言語や文化を勉強しておくのも一つの方法である。日本脱出だよね。国なんかあてにしちゃだめよ。

思うに、現在不安があり、解消できていないという事実それ自体は受け止めるべきである。ただ、だからといって不安を煽ってくる輩からサービスを買わなければならないという話ではない。上の記事を例に言えば、このままでは支払った保険料以下しか年金が貰えないことはほぼ確実であり、その危機感は正しい。しかし、だからといってこやつのセミナーに参加したり情報商材を買ったりといった必要はないのである。

第一、煽られて不安に苛まれたままアクションをしても、人生が楽しくない。まず不安商法に負けた、セールストークに乗せられたという敗北感、不快な事実がある。それを引きずったままその講釈垂れるのを聞き続けるのはストレスフルである。そもそも、それは鎖が変わっただけでいいカモにされているのは変わっていない。

筆者もまんまとセールストークに乗せられて経営を学ぶセミナーやサークルに参加したことがあり、とてもストレスを感じていたことを覚えている。大学の所属名になまじ経営と入っているため、「あ、コイツは経営という単語につられるに違いない」と判断されたのだろう。経営を学ぶのは生存に不可欠だ、大学では経営を学べない、大学生のうちしかチャンスがない、今これに参加しないと後悔するだの言われ、断りきれなかった。

まずこういったセールストークを聞いている時点で苦痛だったし、その後実際にセミナーに参加してみたが、主催者や参加者たちとのノリの違いも相まってどうしてもポジティブな気持ちで臨めないのだ。これは、ポジティブな態度というものは自分の中に「こうしたい」「こうなりたい」という積極的な動機、主体性がないことには形成されないものであるからだろう。他人に煽られた不安、恐怖といった外付けの動機だけでは受動的にならざるを得ないのだ

不安を煽られて、「チャンスは今だけだよ、今逃すと一生後悔するよ」と言われても焦る必要はない。それについてポジティブな気持ちで臨めないのであれば、それは多分今のあなたにマッチしたものではないのだ。別に方法は一つではないわけで、自分が最大限のめり込むことができるものを探していけばよいだろう。

 

ちなみに過去に受けたセールストークを踏まえた、経営の勉強とやらに対する今の自分の考えをここで述べておこう。経営を学ぶ重要性自体はとても理解できるし、実際重要だ。課題を分析する、外部からリソースを調達する、組織内の人間とコミュニケーションを取り、マネジメントするといった能力はどんな問題に対しても不可欠であることは間違いない。

ただ、大学ではそれが学べないかと言われるとそうではないと思う。実際に組織をマネジメントして問題解決に取り組んでみる経験は大変貴重なものであり、問題がないならやってみるべきだ。しかし、そのための前提知識や方法論を大学では学べるわけである。しかも、大学教授は研究のプロである以上、多くの事例を知っているし、客観的に物事を観察、分析する能力に長けている。むしろ経営者・成功者にだって自分の考えや経験に囚われている人も少なくないだろう。この記事でも指摘されているように、問題の構造が違うのに同じ発想で物申してしまうことは大いにあり得るのだ。

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勿論、教授の中には頭の固い理屈だけの人もいるだろうが、それを見極めるためにもまずは真面目に授業を受けておいて損はないはずだ。もし話を聞いていて不満や疑問があれば、それを率直にぶつけてみることをオススメする。マトモな人間であれば取り合ってくれるはずである。また、最近の大学事情を鑑みるに、実務経験のある人間が教授として迎えられていることは決して少なくないだろう。そういう機会は使うに越したことはない。

加えて自分の体験から言えば、大学で真面目に勉強し、図書館の本を読むことで十分思考が鍛えられる。書店に並ぶ本に書いてあることは大抵大学図書館の本に書いてあるし、しかもこちらは無料であるし、良質な内容であることが多い。

また、大学生じゃないと経営について学ぶ機会がないかと言われると、当然そんなことはない。会社で働けば否応なしに経営に携わるし、かつ社長ほど責任を負う必要はない。また実際、元々会社勤めだったが脱サラして独立して成功する人はいるワケで、そういった人が書いた本が並んでいるのを目にしたことはあるだろう。勿論世の中には自分の糧にならないクソな会社は山ほどあるが、同様にいい会社もあるはずだ。クソな環境はさっさと脱出する他ない。

今は受験シーズンであるが、大学生ないしこれから大学生になる諸君らには気をつけてほしい。大学生活は自由であり、色々な機会が転がっている。したがって今までとは全く違う人々と接することになる。その中には今後の人生に影響を与える凄い人もいれば、無知な学生を狙った狡猾で悪い奴らもいる。

 

余談だが、現在の消費者契約法では、不安商法で買わされたものを解約できるようになったらしい。多少は不安商法にまつわる問題も解消されるだろうか。消費者契約法4条3項にはこのようにある。

3 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる

三 当該消費者が、社会生活上の経験が乏しいことから、次に掲げる事項に対する願望の実現に過大な不安を抱いていることを知りながら、その不安をあおり、裏付けとなる合理的な根拠がある場合その他の正当な理由がある場合でないのに、物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものが当該願望を実現するために必要である旨を告げること。

イ 進学、就職、結婚、生計その他の社会生活上の重要な事項

ロ 容姿、体型その他の身体の特徴又は状況に関する重要な事項

elaws.e-gov.go.jp

ただ、「裏付けのある合理的な根拠やその他正当な理由」があるものか否かは、簡単に判断できるものではないだろうし、そもそもトラブルに巻き込まれないに越したことはない。また、法律の穴をついた新たな悪徳商法の出現もあるだろう。常日頃から勉強し、悪徳業者の手口を知っておくことが肝要である。備えよう。