平凡学徒備忘録

自分が思い付いたことを忘れないために書いていきます。経済学専攻の大学生。

絵師の報酬はどのように決まるか?~交渉とゲーム理論~

前回選択肢がないということはどのように危険かという話をしたが、今回は前回の選択肢の話を応用して、仕事の報酬決定のプロセスについて考えていく。未読の方は読んで、どうぞ。

 

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選択肢の話は投資だけに留まらず、音楽や絵画などアートの報酬決定についても言える。Twitterでは「原価だけ見て作品を買い叩くな!この作品を作る技術を得るのにどれだけのコストを払ったかわかっているのか!」という意見が見受けられるが、この事態についても、選択肢の考えが応用できる。 

 

例えば、ある絵を描いてほしいと絵師のもとに依頼が来たとする。その際、他に仕事の依頼がなければ、その案件がどれだけ足元を見ていようとも受け入れざるを得ない。その仕事を断れば収入はゼロであり、受け入れた時と比べると損である(最後通牒ゲームと検索すればこのような事例についてもっと詳しく分かるだろう)。もちろん交渉も可能であるが、相手が乗ってくれなければ意味がない。相手の依頼をこなせるのがあなただけしかいないような場合を除けば、完全に相手に主導権を握られている形である。 

しかし、別の仕事の依頼を受けていれば、それを交渉材料に「そんな仕事請けるくらいなら別の案件を優先します」と切り返し、もう少し高い報酬を請求できる(大体の場合において仕事報酬の相場が決まるのは、同じ仕事には大体同じくらいの費用がかかり、各人の報酬の下限が似通っているからだろう。だからいくら報酬を安くしようとも0円にはなりえない。中世ヨーロッパにはギルドという業者組織があったが、ここでは商品、仕事の価格を安くしないような取り決めをして、産業を保護していた)。 

今までは仕事を受注する側の話をしてきたが、発注する側の選択肢についても考えてみよう。例えば、広告のためのイラストが必要になったとき、大きく分けて「絵師に頼む」「自分で描く」「あきらめる」の3つの選択肢が考えられる。 

「自分で描く」については技量のある人ならば良いが、絵心のない素人は広告に使えるようなものが描けない。そこで絵師にある報酬でオファーを出したら、安すぎると返されたとする。このとき、他の絵師にも同じようなことを言われた場合、この報酬を提示し続けるのは得策だろうか。絵画教室に通って必要な技術を得る金銭的、時間的コストが、仕事を発注した場合に払う報酬より大きければ、それもアリだろう。そうでない場合、報酬額をより高くするか、あきらめるしか選択肢はない。イラストを使う以外にも安く済む広告のやりようがあるならそちらを選択することもできる。このような選択の結果を通して報酬は決定される。 

ただ実際には、知識を基にする仕事が安く買い叩かれることは多い(企業コンサルなんかは別だろうが、例えば学芸員、図書館司書といった仕事は膨大な知識量を求められる割に安月給である)。通訳、翻訳の仕事を例に挙げると、外国語を勉強し始めた人は実際に話してみる機会が欲しいので、報酬が安くても仕事を引き受けてしまうことがある。結果として、これらの仕事が安く買い叩かれてしまい、結果として産業全体が潰れるといったことが起きる。独占禁止法ダンピング(商品を安すぎる価格で売ること)が禁じられていることはこのことによる。詳しくはこの記事に書いたので、目を通してもらいたい。

 

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さて、これらの考察を通して、どのようなことを心がければよいのか。まずは、選択肢の確保、拡充を怠らないことである。自己投資というのはこれにあたる。例えば、社会人になったあとも英語学習を続けて一定以上のレベルに到達すれば、英語を使った専門的な仕事をこなせるというカードが手に入り、多少なりとも交渉において主導権を握ることができる。安月給でも転職が成功するか分からないから現状維持せざるをえないという話はよく聞くが、もしあるスキルを身につけ、よりよい転職先を確保できれば、会社側に「社員を一人失うか、賃上げするか」という選択肢を突きつけることができる。 

また、見逃している選択肢はないかということも考えておこう。即断を迫られる場合にはこうも言ってられないだろうが、冷静になってみると色んな選択肢を思いつくことができる(逆に言えば、即断を迫ることで相手に考える余裕を与えず、こちらにとって有利に交渉を進めることができる)。 

このように2人以上のプレイヤーそれぞれの意思決定を分析する経済学のツールとして、ゲーム理論というものがある。今回のようなケースは最後通牒ゲームと呼ばれる。興味のある人はネットで調べるなり、こういうものを読んでみたりするとよいだろう。 

 

高校生からのゲーム理論 (ちくまプリマー新書)

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世の中には、こちらを利用することしか考えないような人がたくさんいる。そのような人たちに損害を与えられることのないよう、賢く生きていきたいものである。