平凡学徒備忘録

Know your enemy with warm heart and cool head.

上手く交渉をするには?~ゲーム理論の全体像と最後通牒ゲーム~

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ゲーム理論という言葉を聞いたことがあるだろうか。経済学の比較的新しい一分野であり、人々の行動を考える理論である。前回絵師の報酬価格決定について考える記事でこれについて触れたが、今回はゲーム理論を知らない人のために、その全体像と応用例について書いていく。

さて、ゲーム理論というからにはスーパーマリオブラザーズで最速クリアする方法を考えるのかというと、そうではない。ここでいうゲームとは「二人以上のプレイヤーそれぞれの選択がお互い影響しあう状況」を指す。なので、ゲームでいえばチェスとかじゃんけんに近い(遊戯王MtGなんかもそうだ)。チェスは相手の駒の動きに応じて自分の駒を動かさねばならないし、じゃんけんでも、この手を出せば勝つということはなく、どちらも相手の手がこちらの手に影響する。そして、相手の出方を考えないで勝つことはできない。

 

ではなぜ経済学でこのようなことを考えるかというと、実際の経済でもこのようなことを考えていくからである。単純な例としては、同じ商品を扱う二つのライバル店があった場合、それぞれどこまで価格を上げるのか下げるのか、その結果どうなるかを考えるものがあるし、それこそ前回の記事で、実際にゲーム理論的な発想を用いて、仕事の報酬がどう決まるかを考えてみた。

 

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今回は、前回も取り上げた「最後通牒ゲーム」というケースについて考えてみる。こんな状況を考えてみよう。

ゲーム主催者からあなたに1万円が手渡され、そしてそれを友人タナカと分け合うように言われている。どのように分け合うかはあなたが提案できる。公平に5000円ずつ分け合おうと提案してもよいし、タナカには500円だけ与え、自分が残り9500円を得ることも提案できる。しかし、タナカがあなたの提案に同意すればそれがそのまま実現されるが、もしタナカが拒絶した場合、1万円は没収され、互いの利益は0円となる。

さてこんなゲームで、あなたはどのような分配を提案するか。例えば9500円を自分に、残りをタナカに分け合った場合、タナカはそれを拒絶するだろうか。

単純に金額だけ見れば、拒絶して0円よりは不公平な提案でも500円を受け入れるほうがタナカにとって有益である。なので、単純に金額だけ考えれば不公平な提案もタナカは受け入れるので、極端な話1円だけをタナカに与え、残り9999円をもらうよう提案したほうが良い。ということで、ゲーム理論的にはあなたが9999円、タナカが1円を得るような分け方を提案し、タナカがそれに同意すると予想される。

ただ、現実にこんな提案をされたらタナカは提案を拒絶するだろう。不公平だからだ。これが現実と思考実験の違いである(もっとも、タナカがあなたの得る金額を知らないような状況だったり、タナカが極貧で、1円をもらえることでとても満足したりするなら成功するかも知れない)。

しかし、このパターンではタナカには受け入れと拒否という2つの選択肢しかなかったが、これがそもそも非現実的なのだ。提案を聞いた後、逆にこちらから取り分を提案、交渉するモデルを考えれば、より現実的な思考実験になる。例えば、交渉という段階を踏む例で、タナカから、あなたの取り分を1円、残りをタナカに渡す提案をされた場合、あなたはどう切り返すべきか。

5000円均等に山分けしよう、さもなくば交渉決裂で、互いに取り分0だ。」と返すのが良いだろう。何故9999円よこせと言わなかったかというと、そうした場合、タナカが拒否し、互いに利益0となるからである。

こちらの取り分9999円を提案すれば、相手は1円か0円か選択することになる。金額だけ考えればタナカは1円を選ぶから9999円を提案すべきでは?」と矛盾に気付けるあなたは鋭い。

しかし、9999円を提案した場合、タナカは1円か0円かの選択だが、あなたにとっては9999円か0円かの選択となる。ここがカギとなる。このことをタナカに気付かれれば、「ふーん、でもまぁ僕の機会損失はせいぜい1円だが、君の機会損失はほぼ1万円だぜ?僕は別にもらえなくたって構わないんだ。しかし君は9999円の機会を失ってもいいのかい?」と返されるからである。例えタナカが内心、1円でも貰ったほうがいいと考えていたとしても、このように返答した方がタナカの利益になり、彼は利得を最大化できる。逆に言えば、あなたが理不尽な提案をされた場合は、このような逆提案をすればよい。

というわけで結果、2人は公平な山分けをして終了となる。このように、互いがどのような決断をし、結果どうなるかを分析するのがゲーム理論である。メタ視点でゲームを観察するのにも、自分が実際プレイヤーになった場合にもこの思考法は役立つだろう。「人間はいつも合理的に行動するわけではないから、経済学は役に立たない!」という批判はあるが、その場合には、非合理性を考慮した経済学的モデルを考えれば、新たな発見ができる。

今回の例では、

「どちらの選択が自分の利益を最大化するか?」だけでなく、「どちらの選択が相手の損失を最小化するか?」を考えることで、自分の利益を大きくする道筋が開ける場合がある

という点を知っておくと今後役立つだろう。このように単なる思考実験でも、まじめに考えていくと新たな発見があったりする。この面白さに気づけたら、自分でいろいろ勉強してみるとよいだろう。ちなみにこの本は読んで面白かったので、興味ある方はぜひ。