平凡学徒備忘録

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苦手でも数学を学ぶべき理由~経済数学の解釈について~

経済学は社会科学の中で数学をもっとも多用する学問である。政治学社会学などと同じように、色んな理論を実際のデータと比較する際に統計数学の手法を用いるし、こと経済学においては、そもそも理論を作り出すのに数学を用いる。社会科学は文系学問という位置付けにあり、よって経済学部には文系の学生が多く進むことになる。そんな文系の中には、数学が苦手で追い付けないから、数学を使わずとも進学できる経済学部を選ぶ人も多い。その結果、大学の数学の授業に追い付けなくなるなんてことも起こる。

 

大学で学ぶ経済学の内容であるが、ミクロ・マクロ経済学両方において必要とされる数学知識は微分積分である。なので、関数を自在に微積分できることが不可欠だ。統計処理においては、階級値や分散、標準偏差などのデータ処理の基本知識が必須である。

さて、そんな文系が基本的に苦手とする数学であるが、その苦手の根本には2種類ある。苦手というのは運用に必要な能力、知識が足りていないということであるが、経済数学においては、その必要とされる知識には2種類あるというのが私の考えだ。

まず一つは数式処理の能力であり、式を自在に変形する、ある条件を満たす変数の値を求めるなどといった場合はこの能力が必要である。多くの人が言う数学が苦手だというのはこの能力が低いということを表しているのだろう。

この能力は数学を用いる場合一般に必要とされる。経済学ならば需要・供給曲線を求める、生産関数を微分する、均衡量を導くなどの処理が、理論を作るのに不可欠である。

ただ、式変形、計算処理能力が低いからといってすぐに数学ができないか、裏を返せば数式処理ができるからといってじゃあ経済数学もできるかと言うとそうではない。経済数学においては、もうひとつ重要視される能力がある。

それは、数式の意味を理解する能力である。高校までに勉強してきた純粋な数学においてはさほど重要視されてはこないが、こと経済数学においてはこの能力が不可欠になるし、数式の意味を読み解くという視点を抜かした経済数学には意味がない。

例えば、マクロ経済学で投資について、「トービンのQ理論」というものがあり、このような式が出てくる。

I=1/κ*(1-1/Q)K

I:投資額 Q:株価 K:資産額

この式を導くのは大変だが、解釈ならできる。今回はを1/Q、Kという2つの数値に注目してみよう(1/κは数的処理上のもので、何かを表す変数ではないので今回は取り上げない)。

さて、この数式においてKの値が上昇すれば、Iの値は増加する。掛け算の一方の値が大きくなれば積は大きくなるから当たり前だ。そして、そのKというのは資産であり、Iは投資額だ。なので、この式からまず、「資産額が増えれば、企業はどんどん投資する」ということがわかる。また、Qの値が上昇すれば、分母が増えるので1/Qは減少する。ということは、1から引かれる値が減少するので、(1-1/Q)は上昇する。このことから、「株価が上昇すれば企業はどんどん投資する」ということがわかる。

つまりこの数式が意味することは、「資産額や株価の上昇は企業の投資額を上げる」となる。そりゃそうだ。株価が上昇すれば多くの資金が調達できる。となれば、企業は設備にお金を回す余裕ができる。このように、数式を読みとくことによって、経済についての側面を明らかにすることができる

なので、現在数学が苦手だと思っている人は、数学の何が苦手なのかを明らかにしてみよう。式変形、計算処理が苦手であっても、数式の意味を理解することができるならば、自分の考えていることに数学的な視点からアプローチすることも可能である。

というわけで、経済学について知りたい人は、数学的なアプローチについても知っておいたほうがよい。特に1国の経済について考えるマクロ経済学では数学抜きに話を進めることができない。この辺の経済数学の事情や実際の知識を知りたい人には、この本をお勧めする。経済数学のおおまかなアプローチを直感的に解説しているので、詳細な手法を説明するにあたって何をすべきか分かりやすい。

経済数学の直観的方法 マクロ経済学編 (ブルーバックス)

経済数学の直観的方法 マクロ経済学編 (ブルーバックス)