平凡学徒備忘録

Know your enemy with warm heart and cool head.

社会科学の役割

このブログでも前回取り上げたが、文系学問不要論はいたるところで起きる。人々の生活を便利にする物理学や情報科学、人々の命を救う薬学、生物学、化学、医学などとは違い、文系学問には実利がない。といった具合に。

確かに、政治学を学んで政治家として大成するとも、経済学を学んでお金持ちになるとも限らない(勿論多少はこれらの知識も必要になるだろうが、金持ちになったことはないのでわからない)。財政が厳しい中、文系学問に割く予算を削ろうという意見が出てくるのもおかしな話ではない。しかし、私は社会について目を向けることが全く無駄であるとは思わない。

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デマに騙されない為に~社会科学の限界~

「ネットを利用するにあたり、情報を正しく判断する能力が必要だ」と学校でも、各種メディアでも言われる。手軽に利用できるネットには正しい情報と同じくらいデマがいっぱいだ。「火傷は温めたほうが良い」なんてニセ科学は横行しているし、生活に関わることだけでなく、政治、経済、社会についての頓珍漢な言説だっていくらでもある。最近大手メディアのWELQがデマを流していたりヘルスケア大学が監修医の人数を偽ったりしていたことが発覚するといったニュースがあり、今までもこういうニュースはあった。しかし残念ながら、こういった事件がいくら報道されようとも、デマやおかしな言説に騙される人はこれからも存在するだろう。

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効果的な法律について~憲法ってただの紙に書かれた文章だけど...~

headlines.yahoo.co.jp

少し前に、あるLINE役員のツイートが炎上していた。ある会社が株式を募っている様子を見て、否定的なツイートをしたところ、冷笑的だとのリプライが返ってきて、ひと悶着あったところで「憲法ってただの紙に書かれた文章ですよね。。。」とコメントし、これが火種となった。

たまたまTLでこのツイートを見たときに、私は正直当たり前のことだと思ったので、ここまで炎上するとは思っていなかった。こう書くと「お前も法律を軽視するんだな?」みたいに思われるかもしれないが、そうではない。このツイートを見て社会における法の役割について、私の思ったことを交えて考えていく。

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上手く交渉をするには?~ゲーム理論の全体像と最後通牒ゲーム~

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ゲーム理論という言葉を聞いたことがあるだろうか。経済学の比較的新しい一分野であり、人々の行動を考える理論である。前回絵師の報酬価格決定について考える記事でこれについて触れたが、今回はゲーム理論を知らない人のために、その全体像と応用例について書いていく。

さて、ゲーム理論というからにはスーパーマリオブラザーズで最速クリアする方法を考えるのかというと、そうではない。ここでいうゲームとは「二人以上のプレイヤーそれぞれの選択がお互い影響しあう状況」を指す。なので、ゲームでいえばチェスとかじゃんけんに近い(遊戯王MtGなんかもそうだ)。チェスは相手の駒の動きに応じて自分の駒を動かさねばならないし、じゃんけんでも、この手を出せば勝つということはなく、どちらも相手の手がこちらの手に影響する。そして、相手の出方を考えないで勝つことはできない。

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絵師の報酬はどのように決まるか?~交渉とゲーム理論~

前回選択肢がないということはどのように危険かという話をしたが、今回は前回の選択肢の話を応用して、仕事の報酬決定のプロセスについて考えていく。未読の方は読んで、どうぞ。

 

usamax2103.hatenadiary.com

 

選択肢の話は投資だけに留まらず、音楽や絵画などアートの報酬決定についても言える。Twitterでは「原価だけ見て作品を買い叩くな!この作品を作る技術を得るのにどれだけのコストを払ったかわかっているのか!」という意見が見受けられるが、この事態についても、選択肢の考えが応用できる。 

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何故人は詐欺に引っかかってしまうのか?~限定された選択肢~

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例えば、チョコケーキを買おうと近所のスーパーマーケットに行ったとき、その店ではショートケーキしか取り扱っていなかったらどうだろう。あなたがもしチョコケーキを食べたいと思っても、取り扱われていないので買うことができない。もしあなたが作り方を知っており、材料とキッチンがあるならば、自分で作るという手もある。しかし、手を怪我していたり、材料が売り切れていたり、キッチンが無かったり、料理がてんでダメだとしたら、残念だが、チョコケーキはあきらめるしかない。ショートケーキを食べるしかなく、チョコケーキを食べたときと同じような満足感は得られない。 

選択肢が限定されているというのはこういうことだ。ただ、ケーキの話なら諦めも簡単につくし、ストレスがそこまで無いだろうが、もっと深刻な状況で選択肢がない時、例えば、マンション投資のセールスを受けたりした時には、より真剣に問題に向き合わねばならない(※一応断っておくが、別にマンション投資全部が損だとも、そういったセールスマンが全員詐欺師だとも考えていない。誤解なきよう)。 

 

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何故経済学で数学が必要なのか ~経済学的思考法について~

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 経済学は、文系学問の中で、もっとも数学を用いる学問であるといえよう。経済学部は一応世界史、日本史などの履修が必要な文系学部であるが、数学2Bまでを入試科目に設定している大学も少なくない。大学での経済学講義では、入門レベルならまだしも、標準レベルの授業になると微分積分は必須であり、マクロ経済学では扱う式がとても複雑になってくる。さらに、経済に関する各種データを正しく処理、分析するのにも数学的処理は不可欠となる(社会学でも統計は必須の知識である)。

 しかし、大学、もしくは高校で経済学の勉強をしていく中で、統計データを扱うならまだしも、そうでない経済学の授業で数学を使う必要があるのであろうかと疑問を持ったことはないだろうか。授業では需要供給曲線について教えられるが、道行く人に声をかけてある社会の需要曲線を描くことはできないし、第一彼らが正直に答えてくれるとも限らない。それにある商品がどのくらい欲しいかなんて状況によって変わってくる。そもそも人々の幸福度なんて数値に直して測れるものなのか?などなど、考えていくほど数学を学ぶ意義がどんどんわからなくなってくる。

 今回は、何故経済学部生が数学をやらねばならないのか、すなわち経済学における数学の役割と、そこから見えてくる数学の特徴という2点について述べていく。少し前にこんな記事も書いたので、一緒に読むと尚のこと理解できるだろう。

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