平凡学徒備忘録

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資源配分の科学と「市場の失敗」の拡張

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配分の科学としての経済学

経済とは何か。しばしば問われるこの疑問は、回答者の興味関心によって定義の仕方が異なってくるが、今回はこのように定義してみる。経済とは、人が様々な物的資源や生産設備、労働力を投入して財を生産し、生産された財がそれぞれの店に流通して、最終的に消費者に財が配分される、という一連の流れのことである。そのような経済の中で、生産者はそれぞれの経営資源をどのように配分するかを決定するし、消費者は自分の貨幣という資源をどのように配分するかを決定する。つまり、経済学とは資源配分の科学である

そんな資源配分の方法として広く用いられているのが価格メカニズムであり、

 

売り手が提示する価格と同じだけのお金を渡す人には商品を渡すというルールに則り財が配分される。生産者は投入したい資源の価格に応じて投入量が変化するし、消費者も需要している財の価格に応じて購入量が変わってくる。私たちが日々買い物をする際、この貨幣を用いた配分ルールにしたがってモノが配分されているわけである。

市場は基本的には効率的であり、自分が欲しいと思ったものを判断し、行動した結果社会に高い満足度が生まれる。しかし財によっては価格による配分が満足度の最大化に失敗することがある。

そのような失敗というのが、ミクロ経済学の教科書では必ず出てくるし、本ブログで度々取り上げてきた、いわゆる市場の失敗である。それぞれの市場の失敗がどういった問題なのか、資源配分という文脈で整理してみよう。

公共財と情報の非対称性の問題においては、それぞれ公共財や良質な財の生産にかかるコストが賄われない、つまり十分な資源が配分されないことにより、過少供給が生じるという問題である。

外部性が存在する市場は、過剰もしくは過少な生産が生じる。つまりその分資源が過剰に、もしくは過少に投入されているわけである。

独占市場は一見分かりにくいが、独占企業が価格を釣り上げることで、消費者への財の分配分が過少になってしまう問題だと言えよう。また、無理やり価格を限界費用と一致させると巨大な固定費用を賄うだけの資源が配分されないため、結果企業が存続できず、今度は過少供給に陥ってしまうという問題でもある。

典型的な市場の失敗以外の失敗

以上が典型的な市場の失敗であるが、資源配分が効率的に行われないという問題パターンはこれら以外にも存在する。相性を考えないとならない財はいつもこの問題を抱えている。そのような財としてよく挙げられるのが臓器交換である。臓器は単一の財ではなく、レシピエント一人一人と臓器の相性を考える必要があり、それは価格によっては調整されない。中央集権的に情報を集め、割り当てを指示する方法もあるが、各主体が自由に行動した結果、最適なマッチングが達成された方がより効率的である。その他似たような問題としては、研修医制度、公立学校選択制度などがあり、多くの経済学者がマッチングのアルゴリズムについて研究を行っている。

また、無料で使える公営の図書館のようなものにも市場の失敗を見つけることができる。図書館は本や座席をサービスとして利用者に配分するわけであるが、無料なので席に座るためにいちいちお金を払うわけではない。とはいえ、配分の結果にはある程度好ましさがある。例えば1つしか席が無い場合に、課題なり研究なりのために本を借りて読みたいと思っている人と、特に本を読む気はなく、単に足を休めたいだけの人と、どちらが優先的に座れるべきかといえば、多くの人が図書館の目的に照らして前者だと答えるだろう。しかし、貨幣による分配が行えない代わりに何か配分ルールを設けないと、後者に席が明け渡される可能性がある。このように、財、資源が優先的に分配されるべき順位が守られないというのも市場の失敗と言えるのではないだろうか

今騒ぎになっている順天堂大学の入試なんかも、この資源分配の優先順位が守られてないという点で問題である。大学が提供するのは教育サービスであり、教室や教員の労働力、実験設備、図書館、大学のブランド力や名誉などといった限られた資源を学生に割り当てる必要がある。そこで、どこの大学も採っている配分ルールが入試であり、つまり、求める人物像に適し、かつ能力がある人に資源を配分するという配分ルールを採用している。そして、テストでいい点を取り、時には面接によって求める人物像に適合しているような人物にそれらの資源が割り与えられることになる。

順天堂大学は、この優秀な学生に資源を配分するというルールに従わず、資源が分配されるべきであった学生にそれを与えず、本来受け取るわけではなかった学生に与えており、結果非効率的な結果を招いてしまっていた、ということである。

 

今回挙げた臓器移植や大学入試、図書館の席の話は、ざっくりと言えば資源配分の優先順位が守られていないという問題である。なので、そもそもどういった人が財を優先的に得るべきか、そしてその順位を達成するにはどういった制度設計が必要になるか、という議論が必要になる。こういった論点に対し、経済学だけでない他の学問分野の視点を取り入れることで、より多角的に議論が深まる。その議論の土台を整えるのに、経済学は大きな貢献ができるのではないだろうか。