政府機能を考える 第2回~政府機能と政治を変える方法~
前回の記事で、現行の政治システムの避けられない欠点を挙げ、それを乗り越えるには、政府規模を縮小すべきだと述べた。
今回は、じゃあそもそも政府はいかなる機能を持ち、そしてどうやってそれらを民間が肩代わりできるようになるかについて述べていく。
政府の4機能
経済学においての政府の存在意義とは、市場内の自由な行動だけでは解決できない問題を解消することだと考えられている。そして、その問題とは以下の(3+1)つに大別される。
①資源の配分効率の改善
①´ 経済成長促進
③経済安定
つまり、これらの機能は、個人が自分の効用最大化の為に行動しているだけでは達成されず、何かしら市場外部からの働きかけやルールの設定が必要になるということである。以下、それぞれの機能について順に見ていく。
①資源の配分効率の改善
①についてはこのブログでも取り上げているが、経済学の主な主張は、生産者や消費者といった経済主体が自分の意思でのみ動き、できるだけ政府が市場に介入しないことが望ましいというものだ。
例えばモノの価格についてだが、これは政府が固定するよりも、自然発生的に決まった方が、その市場全体の効用は大きくなると考えられている。この他にも、経済学では経済主体の自由な動きに任せた方が効率的だという論証がなされている。
しかし、市場で各人の自由に任せると、社会全体の効用が最大化しないという非効率的な状態、市場の失敗が起きてしまうことに人々は気づいた。つまり、皆が必要としている財でも生産、供給されなかったり(公共財)、市場競争の結果、市場に出回るサービス、財の質が悪くなってしまったり(情報の非対称性)といったことが起こってしまうのだ。
また、それらの失敗を回避しようにも、それぞれが自分の利益を最大化することを優先するあまり、解決がなされない。というわけでこの失敗を解消するためには、市場の中で行動する個人ではなく、市場の外から手を加える必要があり、これを担うのが市町村や都道府県、国といった政府だ、という結論になる。よって①の資源配分の効率化という機能が必要になる。
①´ 経済成長促進
①’だが、①の役割に付け加えて、価値財(教育のように消費されることが望ましいもの)、不価値財(麻薬のように消費されるのが望ましくないもの)の供給や、産業保護、比較優位(その国にとって得意な生産分野)の発見、強化などといった、積極的に経済に働きかける役割も国全体の効用最大化の話に関わってくる。今挙げた項目は、市場の失敗の是正という消極的な役割を越えたものであるが、個人の行動に任せていては達成されにくく、かつ国全体の経済成長を測るのに必要と考えられるため、政府がその役割を担い、政策が施されるべきだとなる。
②所得再分配
ただ、市場、そして国全体の効用を最大化するのは良いのだが、それだけでは格差の大きい社会になりかねない。市場競争の結果必ず事業に失敗する人は出てくるし、個人には大小様々なアクシデントが発生し、本人の内的要因以外で失敗に陥ってしまうことがある。その際、その結果を「自己責任だ、リスク対策しないのが悪い」と言って全く変えようとすることなく、貧乏人に特に何も助け舟を出さないというのも一つの考え方だとは思うが、人権が保障されている以上は誰かが生活を保障しなければいけない。また、格差は世代に渡って再生産されることがあるため、放っておいては格差は拡大するだけである。よって②の役割も政府が担うこととなる。
③経済安定
③についてだが、経済取引を行う以上通貨が必要になるが、これを個人に行わせるのは望ましくない。貨幣を使うには、使う人の間に、それが他の人に受け取ってもらえるという信頼が無くてはならないが、個人がその信頼を取り付けるのは難しい。また、信頼を取り付けたとしても、モノ欲しさにお金を発行しまくり、インフレに陥ってしまうことが考えられる。よって、政府が管理したほうがよいということになる。
いつの時代も選挙の争点、つまり私たちが政府に求める仕事はこれら4つに集約されることになる。エネルギー(外部性)や国防問題(公共財)は①に集約されるし、TPP(関税政策)なんかは①’、社会保障は②、デフレ脱却は③にそれぞれ集約される。そして、選ばれた議員たちが以上の点についての法律を作り、それに基づいて行政が動き、政府が国民の生活に影響を与える。
政治を変える方法①:ロビー活動
以上の観点から見ると、投票とは、①~③の点に於いて自分の意見に合致する政治家、ならびに政党に投じることで自分たちの意見を反映させる行為のことであると言えて、前回はこのシステムが根本的に欠陥を抱えていると述べた。
しかし実際には、投票以外で自分の望む社会を実現する働きかけかたもある。アメリカではよく見られるレントシーキングやロビー活動と呼ばれる行為だ。
ロビー活動(ロビーかつどう、lobbying)とは、特定の主張を有する個人または団体が政府の政策に影響を及ぼすことを目的として行う私的な政治活動である。 (Wikipedia
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ロビー活動
より引用)
つまり、自分たちの利益を大きくする為に法律など諸ルールを改善することだ。勿論、こういった活動については快く思わない人も、特に日本にはいるだろう。どうしても汚職とか癒着とかそういったワードが付いて回る。
ただ、これは前回指摘したことだが、こういった活動が行われるのはどうしても避けられないことだろう。ルールを変えれば自分の利益になるなら誰だってそうするだろうし、そういった行動に対しては、道徳に訴えかけるという手段は間接的な影響しか持ち得ないだろう(勿論その企業の営利追求が、間接的に社会的効用を最大化することも考えられるので、一概に批難すべきとも言えないが)。
なので、こういったルールについては同じように対抗していく必要があるだろう。つまり、組織で結束して政治家に働きかけるのだ。起業する、市民団体を作る等の手段で味方を集め、自分たちの思う社会を良くするルールを作り、行政を動かすのである。
政治を変える方法②:NPO、NGO組織
また、行政の従う法律や条例を改正するのが難しいのなら、これまた組織、コミュニティで結束し、自分たちの思うベストなルールに沿って行政機能をそのコミュニティ内に提供してみればよいのだ。実際に現在様々なNPO、NGO組織が活動し、地域単位でサービス提供を行っている。
震災以降に気運が高まったおかげで、民間が経営する行政的組織の運営についての考え方や事例が充実してきている。例えば上に挙げた本はよくまとまっているので、読めばそれらに関するスタンダードな考え方は理解できるだろう。ちなみにこんな思考実験もある。
Law without Government: Conflict Resolution in a Free Society
また、ブロックチェーンなどの情報技術があるので、より高度できめ細かいサービスが実現しやすくなってきている。ブロックチェーンと聞くと、単なる仮想通貨の金儲け技術で、今回のように社会全体の効用を考える話と関係がないように思うかもしれないが、例えば、「誰が著作権を有しているか?」といった問題については、この技術がとても役に立つ。
無論、技術について専門的に勉強しているわけではないので過信しすぎている点もあるだろう。しかし、今ある技術が活かせそうだと認識し、先ほど挙げた政府の機能を民間で代替する試みを続けていくのは必要である。
市民の自主的な行動によって民間が市場、政府の失敗をカバーできるような活動をし、実績、成功ケースができれば、それが中央政府の規模縮小、財政健全化にも繋がる。こういった市場の失敗ならびに政府の失敗を埋め合わせるような組織を作ることが実際に政治や社会を変えることになる。投票率改善のみを訴えるのではなく、より効果的な方法について模索していくべきであろう。
ちなみに前回、このような記事を書いた。政治を変える手段を考えるのに参考になれば幸いである。