平凡学徒備忘録

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評価経済は誰を幸せにするか?~どのように資金調達するか~

前回の記事で、評価経済を代表するサービス、そして評価経済そのものの全体像について考えてみた。

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 今回は、前回の続きで、VALUにおけるプレイヤーの行動を考慮し、VALUがどのように機能するかついて書いていく。

 

VALUの取引について

VALUの機能を分析する前に、公式サイトからまずはVALUがどのように取引されるかについて見てみよう。

VALU ヘルプセンター

VALUは指値取引である。つまり、値段を指定した上で売買を行う。つまり売り手は「今から私の株を一株〇円で××枚売ります!欲しい人はどうぞ!」と注文を出し、買い手は「あの人のVALUを一株○円で××枚買いたい!」と注文を出し、それが一致した場合取引成立である。

また、VALU発行数上限と価格上限はSNSアカウントのフォロワー数によって規定され、追加の発行はできないとのことだ(発行後の分割も現在対応してないとのこと)。なので、一度作成、発行した場合、その後の値段は単純に取引によって変動することになる。

利用目的

そもそも、VALUを売ったり買ったりする目的はなんだろうか。まずは売り手側の目的から見てみよう。

まずは資金調達である。そもそもVALUは資金調達のためのサービスであり、企業理念も個人を応援することにある。発行者はここで調達した資金を元手に新たなサービス提供などを行うことになる。

そして利益獲得である。株取引を稼ぎの手段としている人がいるように、VALU側はそれを望んでいないようであるが、投機を目的としてVALUを利用する人も出てくるだろう。投機として認知されるまでこのサービスが存続するかは分からないが、続く限り利潤目的で利用する人は絶えないだろう。

次に買い手側も見ておこう。まず考えられるのは、投機目的である。つまり、後々の値上がりによって得られる売買益を見越した購入である。

次に単純に個人を応援する、つまり支援目的も考えられる。VALUの企業理念もここに主眼をおいている。そもそもVALUは資金調達のためのサービスなので、応援してくれる人というプレイヤーも考えなくてはならない。

また、配当目的も考えられる。株式ではこれが株価を決める要因の一つであり、高い配当を用意している株は人気がある。この目的で購入する場合、配当から得る便益が売り出した費用を上回る必要がある。配当の内容はVALUによって多種多様であるが、配当が一回きりの場合、VALU価格以上の価値が配当にあると思われない限りこの目的で購入されることはない。配当が継続的な場合、VALUを保有し続ける必要があり、VALU価格が上がった場合、将来得られる利益と今売って得る売買益を比較して行動を決定する必要がある。

VALUにはどんな市場があるか?

さて、VALUは資金調達サービスであり、株式によく似たシステムを有し、発行主への評価が似た形で価格として反映されるという話はした。そして、株式市場では新規市場と流通市場という2つの市場が存在する。これに沿ってここでは、VALUも市場を二つに分け、どのように資金調達されるのか考えていく。まずは、それぞれの市場について全体像を明らかにしていこう。

新規市場

新規市場とは、新しく発行されたVALUを売買する市場である。そして、発行者にとってはここで売れたもの、取引が成立したものはすべて自身の資金になる。

流通市場

流通市場とは、既に購入されたVALUが転売される市場だと考えれば良い。あるVALUを買った人が、それを売って売買益を得たいと考えた時、この市場内で取引されることになる。既に新規市場にて自分のVALUをすべて売ってしまった場合、ここで買い戻す他ない。そして当然のことながら、売買益を得るには自分の売るVALUが買ったときの価格以上にならねばならない。発行主にとってはその売買益が新たな資金となる。

資金調達のためにどう取引するか

さて、では実際に資金調達しようという場合、発行者はどう行動するだろうか。

まず押さえておくポイントは、流通市場で資金調達する場合、新規市場で調達できるそれよりも少なくなるということである。何故なら、一度自分のVALUを買い戻してから売る必要があるからである。例を用いて説明しよう(実際のVALUはBitCoinによる決済だが、ここでは話を分かりやすくするために円を単位に用いる)。

Aさんが新規市場で自分のVALUを一つ100円で1000VA売ったとする。この場合Aさんは100×1000=10万円の資金調達に成功する。その後流通市場で資金調達したい場合、まずいくつか自分のを買い戻さねばならず、そしてそれが十分値上がりしなければならない。つまり、今後価格が上昇すると見込めない限り、流通市場での調達はできない。

そこで例えば、一つ110円に上がっていたとしよう。これを100VA買い戻したとしたら11000円の費用が発生し、それが更に120円に上がって全部売ったら1000円の資金調達ができる。これは新規で調達した資金の1000分の1である。売買の手間も考えると、新規市場での資金調達の方がより効率的と言える。

となれば、発行主としてはできるだけ新規市場で資金を調達したい。なおかつ、今現在は追加発行も株式の分割も認められておらず、発行主は流通する量を調整できない。なので、自分が持つ自身のVALUを全て売ることは得策ではない。というわけで、買い注文の値段を見ながらこまめに売り、こまめに資金調達することになる

 

資金調達の限界

しかし、VALUの価格は変動する。買い注文で付けられる価格が高くつけば高くなるし、低くつけば低くなる。発行主としては高く売りたいが、高すぎると誰も買わない。買う側としては、将来上昇すると予想される場合に、その将来価格以下で買わねば売買益が得られないし、配当目的にしても単に支援目的で購入するにしても、限度がある。

そもそも、VALU価格はどういったときに高くなるのか。株式ならば調達した資金をもとに新しいサービスや製品が作られ、それが収益の増加をもたらせば配当が得られる。となれば株式を持っているだけで実際的な利益を得ることができる。ということで、利益が上がるというニュースが出ればそこの株価は上昇する。

また、株価が減少したら配当による収益率は高くなるので(一株10円の配当でも、それを一株100円の時に買った場合、200円の時に買った時より収益率が2倍高い)、これが株価の下支えになる。

しかし実際には、直々のアドバイスといった、お金のように客観的に価値があるわけではない配当、優待を有するVALUはたくさんある。そしてそこに価値を感じなければ、購入してそれを保有しても意味がない。

となれば、こういったVALUを購入する目的は、投機と支援目的ということになる。なのでVALU価格が上昇する見込みがないと判断されれば、投機目的の需要がなくなり、支援目的での需要しか残らない。

ここは現在のVALUの弱点だと思う。価格の裏付けがないから、値上がりする見込みのないVALUは取引されなくなり、自分の望む配当、優待を用意していないVALUは持っていても意味がない。となれば流通市場での価格は一定水準にとどまり、新規市場で資金調達をするにつれ、取引が成立する価格は減少することになる。

安定した調達の為には?

さて、以上の話は、VALUの価格上昇が止まる場合の話である。価格の上昇が止まれば新規発行VALUも安値でしか売れなくなり、資金調達にも限界が来る。

ということは、価格が上昇すると購入者に認められる、つまり投機的需要を確保するしか安定的に資金調達する手段がない。新規市場で得た資金をもとに新しいサービスを提供し、VALU価格が上昇するだろうと見込まれれば流通市場でさかんに取引され、結果新規市場でも高値がつく。そうすればより多くの資金調達が可能になり、新しいものを生み出すサイクルが確立する。この循環を確立できたユーザーが増えれば、経済にプラスの影響を及ぼす。

 

さて、今回も長くなったのでこの辺で終わりとする。次は、より具体的な状況を想定してVALU、評価経済について考えていく。

ちなみに今回の考察にあたって、株式、証券市場の知識も必要だと考えたため、この本を参考にした。 個人的な意見だが、有斐閣の書籍は、その丁寧さから、読み通すものというより辞書とか参考書のように、知識を参照するのに役立つような気がする。なので、何か一つまとまった知識体系の参考書がほしい時にお勧めする。

入門証券市場論 第3版補訂 (有斐閣ブックス)

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