平凡学徒備忘録

Know your enemy with warm heart and cool head.

デザイン、アート教育について

最近、弟がデザインの短大に進学したこともあり、デザインやアートといったものに興味を抱くようになった。そんな中でデザインに関する本を読み、また先日東京ステーションギャラリーで「くまのもの」という建築展を見てきて(http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/201803_kengo.html)「ああ、こういう視点で展示品を見て考えればよいのだな」と了解を得るようになってきた。と同時に、美術や技術の教育に問題意識を持つようになった。

美術や音楽、技術の授業は義務教育課程で誰でも受けることになる。課外学習などの名で映画鑑賞をしたり、美術館や博物館に連れていかれたりといった経験があるだろう。ただ、そういった授業を受けて、どれほどの人がデザインやアートといった話題を理解し、議論できるだろうか。「美術館とか博物館行っても別に楽しくない。何の感想も得られない。」と感じて終わってしまう人が大多数ではないだろうか。何を隠そう筆者もそうだった。

義務教育で美術の授業を履修しているにも関わらず、モノを見てもこういった状態になってしまう原因は、モノを見る視点や発想というものについて学校では教えられていないからではないかと思っている。

 

先日のその展示会では「もの」、すなわち木や竹、紙などといった建材に焦点を置き、素材のどういった特徴を活かして建物を構築したかといった解説がなされていた。このように視点が一つ提示されれば、その視点を切り口として展示品や身の周りの建物についてその視点で観察できる。勿論発想を理解するためにはそれなりの知識を要するのだが、少なくとも疑問や仮説を思いつくことはできるだろう。

こういった経験を積み重ねていけば、身の回りのモノについて多角的に考察できる。しかし実際、義務教育ではここまで丁寧に視点や発想というトピックを取り扱い、議論をしているだろうか。大抵「作品を見て思ったことを書きましょう」とか「印象に残ったものはなんでしたか?」といった曖昧な感想を書かせて終わっているのではないだろうか。

モノを見る視点それ自体が、教育を通じないとなかなか得難いものだ。何か一つモノを持ってきて「これについて自由に議論しなさい」と言われても、大人でもなかなか難しいだろう。

授業を受けてきたのにも関わらず、「あー、なんかそれ聞いたことある」「見たことあるー」だけで留まり、それ以上自分の考えを進められないのであれば、それは教育の失敗ではないだろうか。別にアートやデザインについて考えることができるのは生まれ持った才能がある人のみというわけではない。教育を通じてどんな人でもある程度考えることはできるようになると思う。そのためにも、アートやデザインの教育では、モノを観察し考えを進めるキッカケ、発想にもっと焦点を当てるべきだと思う。

また、アートやデザインを理解するための視点を提供することで、他分野の知識を身につけるキッカケになると思う。例えばアートならその作品の時代背景、プロダクトデザインなら材質についての知識がなくては作者の意図や発想を理解できないからである。興味を持って深く調べることで自然科学や社会の知識が身につく。

勿論義務教育で美術の授業を取ったからといって必ずしもデザイナーになるわけではないが、どうせ義務として教えるのであれば、自分で考えを進めるために必要となる道筋を示すべきだ。考えを深めるかどうかは学生次第だが、どういった切り口で考察を深めていけばいいかという全体像、もしくはその一例でも示してやれば、興味が湧いたときに効率的に学習できるようになるし、「モノをどう見ればいいか」が分かるので観察して得られる情報量が多くなる。先ほども述べたように、具体的な知識があったとしても、自分で考えを深めていけなかったら意味がないと思う。その際に具体的な知識はあるに越したことはないが、「どういった切り口で見ればいいのか」が分からなければ深掘りのしようがない

もっとも、自分で考えられるようになるためにまずは教育で適切な視点や切り口を設定すべきだというのは、アートやデザインの分野に限ったことではない。「自分で考えられるようになること」を教育の目的と設定するならば、考察を始める切り口、視点を教えることが、その目標達成のための必要条件になる。科学ならば「どういった手続き、実験をすれば正しさを確かめられるか」といった視点があるし、歴史ならば「そういった環境や思想を背景としてその社会は誕生、発展したか」といった視点で考えることができる。

 

以上の主張は自身の義務教育を受けた経験をベースに書いているので、今は全く様相が異なっているかも知れない。学校に限らず実際こういった教育を行っているところもあるだろう。しかし、筆者としてはむしろ「いや、そんなことは皆分かってるし、今の教育内容はその点をキチンと克服してるぞ」と、ここで書いた主張が時代遅れのものとなることを願うばかりである。

 

ちなみに、最近読んだデザイン関連の本というのがこれだ。新しい視点で書いたというものではないが、今回挙げた「デザインを観察し、理解する視点」を得るのには丁度良い、入門者にも分かりやすい本だと思った。 

日本のデザイン――美意識がつくる未来 (岩波新書)

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