平凡学徒備忘録

自分が思い付いたことを忘れないために書いていきます。経済学専攻の大学生。

話し合いから物事を解決するには?~インセンティブ設計~

こんな記事を書いた。

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 話し合いだけでは物事は解決しない。対話の果たす機能とは問題の確認など情報を整理することである。相手の行動を変えたいなら、相手が何に基づいて行動するのかを知ることが不可欠であるし、それは説得なんかで変えられるものではない。それを可能にするのは、対話の中で明らかになったことを踏まえた解決策だ。

 とはいえ、解決策を作れとは言われたって、何から始めればいいのかわからないし、あらゆる問題を一気に解決するような一般的かつ効果的な方法など多分ない。

それでも、解決策を考える足掛かりはある。それがインセンティブ設計というアイディアだ。

 

 インセンティブとは誘因という日本語訳が当てられている。ざっくり言えば、アメとムチである。つまり、何かをさせる、もしくはさせない為の動機付けだ。

 例えば奨学金なんかはその例である。良い成績をとれば、経済的な補助が受けられる。表彰される。となると、頑張って勉強しようという意欲を学生に与えることができる。

相手を変えようと思ったら、その行動を促している誘因を考えねばならない。

CO2削減が上手くいかないのはこの誘因を変えられないことにある。勿論様々な取り組みがなされているが、それでも劇的に成功しているという事例は聞いたことがない(もっとも火力発電量を0にすることではなく、最適量に抑えることを目的としているという点では上手くいってると言えるかも知れないが)。

世界中で火力発電に頼っているのは、それがクリーンエナジーを用いる発電方法より効率がよいからである。何も地球環境を破壊したいがために火力発電を採用している訳ではない。環境に与える悪影響が少なく、発電効率も従来よりもよい発電方法が産み出されれば、それを積極的に採用する企業が出てくるだろう(ただ、既に発電所を抱えている企業は切り換え費用の問題もあるので、採用するかは分からないが)。

ただ、ここで気をつけて欲しいのは、人は経済的(金銭的)インセンティブにだけに従うというわけでなく、様々なインセンティブに反応するということだ。

 

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この記事で取り上げた「不快な取引」はその例である。人は腎臓が一つだけでも生存可能であり、臓器が金銭的に取引されればもっとドナー提供者は現れるだろうが、臓器を金銭を通して取引することには少なからず抵抗を覚える人がいるかもしれない。そういう人たちには、あなたには臓器を売買する金銭的インセンティブだけでなく、それに反対する道徳的、感情的インセンティブがはたらいていると言える。

 

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この記事で、最後通牒ゲームという人は自分の利益を無視してまでも不公平な取引には応じない例をあげた。この例のように、人は経済的インセンティブだけでなく、様々なインセンティブに従う。議論では相手が何に反応するのか見極める必要があるといえよう。

インセンティブの理解が役立つのは、何も交渉ごとだけとは限らない。インセンティブとは人の行動を決定する要因であるので、人の行動を知りたいとき全般に役立つと言える。

インセンティブを考える場面として、歴史考証が例として挙げられるだろう。例えば、エジプトのピラミッド建設に投入された多くの労働者は、別に劣悪な環境で馬車馬のように働かされていたわけでないことをご存じだろうか。むしろ、パンとビールを報酬として与えられていたようである。実際、二日酔いで仕事場に来ないことを報告する資料も見つかっている。

何故インセンティブを考えればこれが分かるかというと、労働者を奴隷のように使うことは大変なコストがかかるからである。労働者を管理する監督者への報酬、彼らに使わせる装備、労働者を生かすための食事や建物などコストは莫大だ。近世イギリスで使用人を抱えていたのは金持ちだけであったこととも整合的である。

しかし、パンとビールを与えることで労働者が満足して働いてくれるなら、これらのコストは皆無になり、明らかに後者の方が安上がりである。このように、選択肢ごとのコストとベネフィットを考えれば、考察対象がどのような行動をとるかを考えることができる

人はインセンティブによって行動を決定する。それは金銭的なものでもあるし、道徳的なものでもある。相手の行動を変えさせたい場合、相手がどういったインセンティブに反応するのかを議論を通じて明らかにしていき、それを織り込んだインセンティブ設計を考えていくことが交渉をうまく進める第一歩となるだろう。

 

さて、いくつか交渉について書いてきたが、大体の考え方はこの本に依拠している(ゲーム理論の話とかはないが)。興味ある方は是非。

世界最強の交渉術

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